在宅医療Q&A

Question1

  簡単に言うと在宅医療というのはどういうものなのでしょうか?

  患者さんが住み慣れた家で、住み慣れた町で生活を続けながら、療養することをお手伝いすることだと言えると思います。

  具体的には医師や看護婦が患者さんのお宅にうかがって、診察や投薬、注射、処置、採血、看護といったことをします。医療をおこなう場が、入院の病室、通院の外来に加えて、在宅の自宅という3つになってきたということです。


 在宅ケアという言葉もよく耳にしますが、在宅医療とはどんな関係になるのでしょうか?

何らかのハンディキャップを持った方が、自宅で生活をしながら療養するわけですから、日常生活を援助するサービスと、必要な医療を提供するサービスがいります。左の図にまとめてみました。大きく分けて4つのパートから成り立っていますが、この全体が在宅ケアということになります。在宅医療はこの在宅ケア全体の中で医療機関から提供される左の2つのパートを指すと考えていただくとわかりやすいかと思います

私たち医師や看護婦が直接に提供しているのは在宅医療ですが、もちろん一番大切なのは在宅ケア全体がうまくいくことです。それには私たちも市役所、保健所、在宅介護支援センターなど他の保健福祉サービスの提供機関と積極的に連携していくように努めています。また、在宅サービスを外から支援する病院や施設の役割も大切です。

 

Question 2

 どうして最近在宅ケアがクローズアップされてきているのでしょうか?

 それには消極的理由と積極的理由があると思います。高齢化の急速な進展、慢性疾患や後遺障害を持った方の増加、医療費の増大にこれまでの国の医療福祉提供制度を見直す必要が出てきています。

 大学病院や市民病院など急性期の病気を扱う病院は、高いお金をかけた設備やたくさんのスタッフを有効に利用するためには、短期間でベッドを回転させなければなりません。また長期のいわゆる社会的入院の解消も必要です。こうした結果これまでより入院期間が短くなり、それだけ在宅ケアが必要な患者さんが増加してきています。これらはいわば消極的理由ですね。

 実際に在宅医療にかかわる私たちとしては、積極的な理由にも目を向けたいと思います。それはインフォームドコンセントとクオリティオブライフ(生命の質)という考え方が徐々に浸透してきているということです。簡単に言いますと病気を抱えた方が、自分の状況をよく知り、一番良い選択をするために必要な情報を、医療者側が提供し、相談に乗るというやり方です。

 治療の及ばない末期がんや、慢性期の後遺障害などでは、病院は必ずしも過ごすのに適した場所とはいえません。もし良くならないとしたら、残された自分の人生をどこで、どう過ごすのが一番良いのか、という大切な問題に対する答えのひとつが在宅療養であり、それを支えるのが在宅ケアだと考えています。

 医療の基礎になる保険点数制度の上で、まだまだ矛盾点もありますが、在宅医療が制度化され、ここ数年で急速に広がってきています。

Question 3

 どういう患者さんたちが在宅医療を受けておられるのでしょうか?

 通院が困難で、自宅での療養を望まれる方ということになりますが、大きく分けると3つのグループに分けられると思います。

 ひとつは高齢の方で、脳卒中の後遺症や痴呆症、あるいは腰や膝や股関節が悪くなったりして歩くのが難しくなったり、寝たきりになった方です。このグループの患者さんが一番多いと思います。

 2つめは比較的若い方も少なくありませんが、いわゆる神経難病や、事故の後遺症、その他、大きな病気の後遺症で移動が困難な方です。以前は病院でしかできなかったような酸素投与や人工呼吸器の使用なども現在では在宅で出来るようになってきています。

 そして3つめは末期がんの方です。残された時間を家族とともに住み慣れた家で過ごすことを望まれる方です。

 いずれも入院したからといって、治ることは難しく、また日頃何らかの医療サポートを受けながら家で暮らしている方ですね。


 患者さんのお宅にうかがって診察をするということですが、往診とはどこが違うのでしょうか?

 これは言葉の定義の問題なのですが、現在、在宅医療という時には、通院困難な患者さんに対して、ご本人、ご家族の同意を得て、計画を立てて、定期的、継続的に訪問をして診察や看護をすることを言います。

 先ほど対象となっている患者さんについてお話をしましたが、どの方も一時的な病気ではなく、生きている限り抱えて行かなくてはいけないものですから、その医療には計画性、定期性、継続性が必要なのです。もちろん状態が不安定になれば予定外にも訪問していて、この場合には往診という言葉を使うときもあります。  

Question 4

 具体的にはどういう形で在宅医療はされているのですか?

在宅医療を提供している機関は、診療所、病院、訪問看護ステーションなどです。様々なサービスがありますが、中心となるのは医師による訪問診療と、看護婦による訪問看護です。まず医師が訪問診察をおこない、それにもとづいて訪問看護などの指示をおこないます。


 在宅医療のポイントとなるのはどういう点でしょうか?

左の図にあるように、訪問診察の頻度、訪問看護の頻度と自分のところからするのか、訪問看護ステーションに指示を出すのかという点ですね。それから訪問リハビリ、薬剤管理などをどうするのか、他の保健福祉サービス機関との連携をどうとるのかという点。そして夜間、休日の対応の問題、入院が必要となった時の対処、家での看取りを希望された時にどうするかなどだと思います。

 

Question 5

 出水クリニックではどのようにしているのですか?

 ご本人が来れることは少ないので、依頼があると、まずご家族に来ていただいてお話をうかがい、それから訪問をして病状をみせていただき、訪問の頻度などを決めます。一番落ちついている方だと、2週間に1回の訪問診察をしますが、がんの末期の方で痛みのある方や、病状の不安定な方だとほぼ毎日うかがうこともあります。

 それから必要に応じて訪問看護をおこないます。これも状況次第で、処置や介護の援助、病状の観察などが頻繁に必要な方だと毎日行くこともありますし、逆に訪問診察だけで看護は行っていない方もいます。

 在宅ケアについては医師より看護婦の果たす役割の方が大きいこともしばしばです。医師と看護婦のコミュニケーションがスムーズであることが非常に重要なポイントであると考えており、私の所では、自分の診療所の看護婦が訪問看護をするようにしています。

 予定の立つ方だと、月末に翌月の訪問予定表をお渡しし、また実際にうかがう日の朝にお電話をして、様子をたずね、必要な準備をしてだいたいの訪問時間を打ち合わせています。


 夜間や休日はどうしているのですか?

 在宅でみさせていただいている患者さんについては、在宅を望まれる限り、家で看取られることを含めてサポートさせていただこうと考えています。

 そうしますとやはり24時間の対応が必要となりますのでそのようにしています。診療所ですので時間外には人はいませんから、留守番電話にして転送されるようにしています。また念のために携帯電話の番号もお伝えしてあります。

 遠くへでかける時は、知り合いの先生にお願いしています。今後は在宅医療に取り組む医師同士で、地域のネットワークを作っていく必要があると考えています。そうしないと休めませんしね。


 入院が必要な時は?

 入院ベッドのない診療所ですから、入院医療が必要な時や、ご本人あるいはご家族が入院を希望されたりした時は、病院にお願いして入院をさせてもらっています。病診連携と呼んでいますが、日頃からスムーズな関係をつくるよう心がけています。 Question 6

 家で看取ることはやはり大変なことなのでしょうか?

 もちろんご家族が亡くなられるということは、場所に関係なく大変なことだと思います。色々な事情で、患者さんについてあげられない場合は、やはり病院へ入院とということになるのでしょうが、逆に誰かがずっとついていてあげたいという場合には、家の方がやりやすいことがたくさんあります。

 衰弱して亡くなって行かれる患者さんに対してできることは病院でもそう多くありません。住み慣れた家で、親しい家族に看取られることは何事にもかえられない価値があると思います。

 ぜひ家での看取りに賛成してくれるかかりつけ医をみつけて、相談されることをおすすめします。 Question 7

 在宅医療をうけるにはどうすればよいのでしょうか、また費用はどれくらいかかるのでしょうか?

 直接医療機関に相談されれば良いと思います。うちでも連絡をしていただければ、ご相談に応じています。

 費用は、通常診察・看護ともそれぞれ週3回までは健康保険が適用されます(ガンやその他一部の病気では回数制限はありません)


 在宅医療を定期的、計画的に継続しておこなうことの長所は? 

 患者さんの普段の様子がよくわかり、病状の評価がしやすいこと、往診とちがって医療者側の予定が立ちますので、業務の計画を立てることができ、スタッフの確保もしやすいといった点があげられます。

 けれども、私は最も大きな長所は患者さんやご家族の生活の場で、ある程度ゆっくりお話ができるということだと思っています。

 ご経験のある方も多いと思うのですが、外来や入院で医師とうちとけてゆっくり話をし、疑問点をたずねたりするということはなかなか難しいことになってしまっています。

 しかし在宅ではくつろいだ世間話も含めて、そうしたお話をすることも可能です。それはお互いの人間関係をつくり、その人その人の事情を医療側が知り、それに合った医療をしていく上で欠かせないことだと思っています。このことを患者さんの個別性を大切にした医療と呼んでいる人もいます。


 個別性を大切にした医療は、在宅医療に限らず、全ての医療に望まれることですね。

 もちろんそうですね。しかし医療の内容によってその部分の持つウエートは違っています。

 次の図を見ていただきたいのですが、救急医療や集中治療といった医療では設備や技術といった要素が大きいですね。それに対してがんの末期の患者さんをみる在宅ホスピスケアや、慢性の病気や後遺障害をみていくといった在宅医療では、この個別性を重視する姿勢がきわめて大切だと思います。

そのためには、可能な限り患者さんが生活の場にいること、患者さんやそのご家族の願いを尊重すること、気軽に何でも相談してもらえるような環境を作ることが大切です。それには忙しくしすぎないことも重要ですし、継続的に主業務のひとつとして取り組む地域の開業医の役割が大きいのではないかと考えています。